INORI広場 Blog

卒 業


卒業式シーズンの頃、若いお客さんが来てくれました。
高校3年生の女の子で、見るからに「素直に育ってくれましたね~」ということがわかるまっすぐな子です。


聞けば、卒業を前に、仲の良い友達3人におそろいのブレスを作りたいという希望でした。
このような記念のブレスは、この子たちにとって一生モノとなるものなので、彼女の希望を聞いて心を込めてお作りいたしました。

合格祝賀会

彼女を見ていて、ずっと以前のあることを思い出しました。
今、彼女たちはどうしているだろうか・・・

20年ほど前、僕は学習塾の室長をしていました。
本職の塾の仕事が大変で、なかなか大好きな石に関わる時間が取れなくてジレンマを感じていた時期です。


学習塾でも、中学3年生が卒業するときは「卒業式」を行います。
塾には高等部もありますが、小中部門とは学習のレベルが全く変わるので、すべて別の講師陣に引き継がれますから、本当に卒業なのです。


公立高校の入試発表の日は、学校へ合格報告に行った後、塾では夕方から「合格祝賀会」という名の「卒業式」を行います。
中学3年生は5クラスほどありましたから、近くのホールを借りて行うのです。

すでに入試が終わっている生徒も、この日は全員集合して思いっきり羽を伸ばして騒ぎます。


堅い挨拶はそこそこに、ジュースで乾杯してお菓子を食べながらの雑談・・
その後、ゲームをしたり、クイズ大会などをして遊ぶのです。イベントは年によって変わります。
単にビンゴゲームであったり、講師たちの漫才であったり、手品が出たりといろいろです。
この日ばかりは、生徒たちも気分が乗っていますから、われわれ講師が何を披露してもすべることはありません。
(*^。^*)

そして会も終わりに近づいた頃、照明を少し落として、われわれ講師一人一人から、今までの気持ちを述べます。

初めて出会った時の様子・・・
激しく叱って、お互いが気まずくなった時の思い出・・・



生徒自身も悔し涙を流して頑張った夏の日・・・

いろんな話を、講師が選んだBGMとともに順番に語ってゆきます。
言ってみれば、この日が生徒の前で話をする最後の日ですから、いつも以上に気持ちを込めて語るわけです。

このあたりから、生徒も先生たちも涙、涙・・・の場面です。

そして夕方の6時ごろに解散、という流れなのですが・・・・
毎年そうはいきません。
ホールから教室に戻ってくると、一緒に写真撮ろう、と撮影大会になります。


会が終了しても生徒たちは一向に帰る気配はありません。
写真を撮り合ったり、どうでもいいような話でいつまでも教室に残っています。

この光景は毎年のことなのですが、その年の生徒は結構仲が良かったので、特にそうでした。

時間は午後8時をとっくに回っています。



僕は各講師に指示を出し、それから程なく生徒たちは別れを惜しみながらも帰ってゆきました。

判断のしどころ


ところが、全員帰ったのを見計らって、5人の女生徒たちが僕たちのところへやって来たのです・・・・

生徒「あのぅ、先生・・・今日で最後だから、私たちから先生に、今までお世話になったお礼の言葉を言いたいんです。だから・・・少し、時間いいですか?」


時間は9時前です。普段の授業終了は10時ですが、この日ばかりは早く帰ってもらわないと困ります・・・
しかし、お礼の言葉だったらそんなに時間もかからないだろうし・・と思い、5人の生徒に「いいよ」と答えました。

実はこの子達は、普段はどちらかというと本当におとなしくて、あまり目立たないタイプの生徒だったのです。
それだけに講師たちからすると意外でした。

生徒「じゃあ、今から準備してきますから、先生たち全員待っていてくださいね。」
そう言って、彼女たちは奥の教室へ入って行きます。

しばらくして彼女たちから声がかかり、教室へ入って行くと、黒板の前に5人の生徒たちが立っていて、僕たちは、生徒のように机に座らされます。

彼女たちの横にはCDと、なにやらいくつかの冊子が置いてあります。
当時の中3担当講師だけで10人くらいいましたから、その冊子とCDは、先生一人一人に、今日渡すために作ってくれたアルバムなのです。



彼女たちが選んだ曲が入っているお手製のCDと、歌詞を「すべて手書き」で書いたものに、彼女たちのメッセージが入った心のこもったアルバムです。
10人分、コピーではなく、すべて手書きです・・・

今日のために、この子たちが時間と手間をかけて作ってくれたんだな、と思うと、それだけで涙が出ます。

それから、生徒が一人一人、われわれ講師へ今までのお礼と感謝の言葉を述べてくれます。
僕たちが先ほど生徒たちへ語ったのとは反対に、今度はこの子たちが僕たちに語ってくれているのです。

授業中当てても、大きな声で答えることの出来なかった子なのに、この時は大きな声で、一生懸命喋っています。
しかも、メモを見ることなく、延々と10分くらい語っているのです!!
すごい・・・と思いました。


話ながら涙で顔がぐちゃぐちゃになってもかまわず、一生懸命気持ちをぶつけてくれています。
一人が話し、次にまた一人・・・

僕たちは感動で、全員涙うるうるでした。

ただ、僕は感動しつつ心のどこかで時間を気にしていました。教室長の責任から、早く帰さなければ・・・と。

本当なら、彼女たちが「お礼の言葉」を述べたい、と言った時点で家に連絡をさせるべきでした。
でもその時予想していたのは、5人の生徒が揃って「今までお世話になりました」と言って終わるだけだと思っていたのです。

この盛り上がっている最中に・・・

河野「みんな本当にありがとう。みんなの気持ちはよく分かりました。だから、今日はもう遅いから帰りなさい。さあ!」・・・という事は出来ません。
今日のこの瞬間は、一生に何度あることでしょうか。
僕も長く講師をやっていますが、このような事は数えるほどです。
彼女たちだってそうでしょう。

結局、全員が思い々の気持ちを語り終わったのは10時を過ぎていました。

涙でぐしゃぐしゃながらも、急いで全員を車に乗せて、各講師が自宅まで送り届ける事にしたのです。(すでにスクールバスは発車した後でしたし・・・)

事務所には、当然彼女たちの親から心配して電話がかかって来ていました・・・

すぐに一人一人に僕から電話を入れ、遅くなってしまった事のお詫びと、彼女たちが今日はどんなに素晴らしかったかを話させていただきました。
今日の彼女達の心の語りは、絶対に他では見たことがないだろう、というくらい素晴らしかったからです。

4人の保護者の方は何も問題がなかったのですが、お一人のご家庭では、かなり憤慨されていました。

母「今日は、合格発表の日ですよ!!塾で祝賀会があると聞いていたので、仕方がないと思いましたけど、本当なら家族で一緒に食事して祝ってやりたいところです!
それなのに何ですか! こんな遅くまで子供たちを残して!
そりゃ、子供たちは楽しい会だからいつまでも残ってわいわいとやりたいでしょう!でも、そこを先生方が心を鬼にして、帰れ、と言うのが大人なのではないのですか!親の気持ちも考えてください!
お宅には上の息子もお世話になって、本当によくしてくれる塾だと思って感謝していましたが、今日のことで考えが変わりました!
こんな塾に預けるんじゃなかったと後悔しています!河野先生にも今まで持っていた信頼感は、今ではかけらもありません!!
と言って、いきなりガチヤ!!
「ツー・・・ツー・・・」



保護者の言われることは最で、返す言葉もありません。
家でどれほど心配されていたのかと思うと心が痛みました。

ただ・・・あの時・・・僕には、どうしても途中でやめさせるわけにはゆきませんでした。
どうしても最後まで喋らせたかったのです。

お怒りの保護者には後でお手紙を書きましたが、返事は来ずでした・・・

20年近く経った今でも、あの時の感動的で、そして苦い経験を思い出します。


・・・・・・・・・・・

実は後日談がありまして・・・
2年ほど前に、偶然にもその5人の女の子の一人が店に来たのです。
あれから僕が天然石のショップをやっているなど全く知らずに、です。
たまたま興味があって入ったら僕がいた、という感じです。(^^)/


当時、学習塾は明石だったので、宝塚で出会うなんて思いもしませんでした。


泣きながら語ってくれた、当時14歳だった彼女もしっかりとした大人の女性になっていましたね。


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